自然体になることと重力

自然体になるということは、自分の身体が重力に対して平衡状態を保つことを意味します。この重力との平衡状態が身体のゼロ化と言われるものです。自分の身体を重力と平衡状態を保つにはある意識状態になる必要があります。その意識状態とは、空間をつかむ明澄さのことです。それは、自分の身体を整えて立とうとする意識ではなく、周囲の空間との関係によって自分を立たせる意志力のことです。

 

自分の身体を整えようとする段階、つまり意識的に姿勢を整えようとする段階はその前段階としては必要なことですが、姿勢をよくすることで自然体になれるわけではありません。姿勢をよくすることはあくまでも骨格を正しい位置にすることにすぎず、それはちょうど積み木を正しく積み上げることと似ています。正しく積み上がっただけでは、自然体にはなりません。それはただ重力にゆだねている状態にすぎず、ちょっとした動きが加わるだけでもバランスを崩してしまい、居ついた状態になってしまいます。高く積み上がった積み木をもって歩いてみればわかります。バランスを失えば、積み木はあっという間に崩れてしまいます。なぜなら積み木の一つ一つは単に重力に任せて下のパーツに乗っかているにすぎないからです。

 

身体を重力にゆだねたり、任せたりするのではなく、全身の各パーツに、重力と平衡状態を保とうとする意志力が浸透しなくてはなりません。そうして初めて「自然体」と呼ばれる身体になることができるのです。自然体になったとき、身体の各パーツは「生きたもの」になります。生きた足、生きた手、生きた背中・・・・自然体というこの重力との平衡状態は、ゼロ化の状態と言われるものですが、それは同時に生命力をもった生きた身体でもあるのです。